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想い絡めて

[前提]キャラなし
[設定]女/上級貴族 一人称『私』
[補足]ヴァイルとの好友好愛は高いが約束はしなかった。


 赤い夕陽が地平線へ沈んでいくのを見ながら、私は一人、湖上で波に揺られていた。薄っすら寒気を覚え、そっと身を縮こまらせながら、赤く燃える太陽を見つめていた。
 大人になって、一年が経った。王を目指したけれども、もう一人の王候補の彼には敵わなくて、結局なれなかった。王位継承権を放棄した私は侯爵位を与えられて、城から遠く離れたこの地で領主として生きていた。村にいた時では考えられない生活に、時々夢なのではないかと思う時すらある。
 ゆらり、小船が揺れる。この小船に乗っているのは私一人で、ここに来ているのを知っているのも、私だけだ。
 黒の月の白の週の十日、私はこの湖に一人来て、日が沈むまでここにいる。年明けも近いこの時期に、このようなことをするのは、きっと後ろめたさからそうさせるのだろう。
 去年のこの月、この週、この日。私は彼と共に湖へ向かった。私のいるような湖ではなく、王城全体を囲む大きな湖。今のように二人で夕日を見て、そして、彼は私に『約束をしよう』と手を差し出してきた。ずっとここにいる、何があっても離れないように、と。私は最初そうするつもりだった。でも、ふと思ってしまったのだ。もしも、私が王になれなかったら、私はどうなるのだろうか、と。――なれないのなら、外の世界を見てみたい。村と城以外の街や地方を見たい。そう思って、私は彼と約束をしなかった。その時、彼は酷く傷ついたように笑っていたのを、今でも夢に見る。 

「ヴァイル……」

 今なら約束が出来るのに、もうそれは出来ない。彼だって今頃結婚の申し込みとかで大変なはずだ。そんな中に私もと立候補したところで信頼されないから無理だろう。
 ……そうだ。今度、城に用事があったら彼との謁見を申し込もう。もしかしたら、また仲良く話してくれるかもしれない。
 そう考えていて、そういえば彼にはあの後、何も言われなかったなと思い出す。責めるようなこともしなかった。その代わり、二度と私に話しかけてくれなかった。やっぱり、嫌われたのだろうか。毎月出している手紙にも返事は来ないし。そう思うとやっぱり行くのも嫌になる。
 ああ、もう嫌だ嫌だ。こんなことを考えてるだけで、胸が苦しくて死にたくなる。いっそ、この湖に沈んでしまえば、私のことが彼の耳に入るだろうか。そして、一滴でも、少しでも彼が私のことを想ってくれるかもしれない。
 ゆっくりと小舟が揺れる。私は船頭に立つと、目を閉じて身を傾けた。風が髪をなぶり、一層足場が不安定になる。

「――レハトっ!」

 湖に落ちる瞬間、聞こえた声は酷く懐かしいものだった。
 冷たい水の中へどんどん沈んでいく感覚と、鼻や口から入りこんでくる水に苦しくなってくる。死ぬのはこんなに怖く痛い。そう小説や伝聞で聞いていたから知っているはずなのに、実際、体験することと知識としての死は違った。もう少しドラマチックなものかと思っていたのだけれど――
 薄っすらと目を開けると、気泡として逃げていく酸素と、私に向かって手を伸ばす、誰かの姿が見えた。その誰かの顔はぼやけて見えないけれども、何故か、それが温かいもののように見えて手を伸ばした。
 そして、その手が私の手を掴んだ瞬間、物凄い力で引き上げられて、唇に何か温かいものが当たる。そこから空気が注ぎ込まれて、何ともロマンチックな状況じゃないかと思う。
 けれど、私の意識はどうやら限界に達したようで全身から力が抜けていく。このまま死ぬのだろうか、それとも――
 その結末さえ分からないまま、私は目を閉じた。



 私が自殺未遂をしてから二週間後、相変わらず私は領主として政務に励んでいた。結局、私は死ななかった。あの誰かによって助け出された後、小舟の上で眠っていたのを侍従が発見されたのだ。侍従や医師にはしこたま怒られ、その後、風邪も引いてしまったが、未だに助けてくれた人が誰なのかは分かっていない。
 羽筆を机に置き、肘をついて溜息を吐く。侍従が持ってきてくれていたお茶を飲もうと手を伸ばした瞬間、鈴が鳴った。
 誰か、と問うと、と入ってきたのは困り顔の侍従で、手には一つの手紙らしきものがあった。侍従はそれを私に渡すと、何も言わずに一礼して戻っていった。何の手紙だろうと、差出人を確認した瞬間、酷く胸の鼓動が早まった。なんせ、差出人が彼、ヴァイルからだったのだから。
 椅子に座り、そっとその封を開くと、見えてきたのは以前よりも丁寧になった彼の文字だった。文を読んでいく内に、胸の動悸が止まらないまま、顔が少しずつ赤くなっていく。書かれていた言葉はたった一行だけの短いもの、それでも。
『黒の月、赤の週、十日。あの時の桟橋で待ってる』
 


 そして、とうとうその日がやって来た。その日に会うように出立し、到着したのは当日の昼頃だった。彼にも謁見をし、領地についての報告をした後、相変わらず城で浮名を流しているユリリエと再会した。

「随分ご無沙汰ですわね」

 暫く見ない内にユリリエは前よりも美しくなっていた。話している内に意気投合し、広場でお茶を飲みながら話すことになった。

「それにしても、レハト様が貴族になられるなんて思いませんでしたわ。私、てっきりヴァイル様と結婚なさるかと思っておりましたのに。……何か理由がありますの?」

 その問いに対して口を閉ざす。
 彼と結婚したいとは思った。けれど、約束も出来ない私にそんな資格があるのだろうか、そう考えれば考えるほど、想いを伝えるのが怖くなった。

「約束? ……ああ、そういうことでしたのね。でも、約束なんてするだけしておいて、後は知らんぷりしても構わないと思いますわ。大人になれば約束しても、守れないことなんてざらにありますもの」

 上品に、そうユリリエは微笑んだ後、持っていた扇で私の胸元をそっと突いた。

「私、レハト様は色々と物事を頭で考えすぎだと思いますの。そして、恐ろしく真面目でいらっしゃる上に、他人の気持ちを思いやるのが当たり前だなんて、隙だらけにも程がありますわ。……いつか足元を掬われますわよ?」

 ユリリエはそう言うと悪戯っ子のように笑う。他人を思いやるのが当たり前だなんて思わなかった。だって、優しくしたら皆が私の存在を認めてくれる。だから、頑張っているだけで。
 ユリリエは紅茶を啜り終えると、慈愛に満ちた眼差しで私を見た。

「レハト様はもう一人でも大丈夫ですわ。評判を聞いても立派に領主としても役目も果たしているようですし……まぁ、ヴァイル様は違うみたいですけれども。ところで、レハト様は何故城へ?」

 彼から呼び出されたのだ、と素直に言うと、ユリリエは少し首を傾げて、納得したように頷いた。

「用事? ……ああ、道理でヴァイル様が朝から浮かれていらしたのね」

 その言葉に、私がそう思っていたように、彼もそう思っていたことが嬉しい。思わず顔を綻ばせていると、ユリリエは真剣な表情で告げた。

「でも、レハト様。貴女は一度、あの子からお離れになられた。そのことを、どうかお忘れなきよう。……二度目は、ありませんわ」

 そう言うとユリリエは席を立って、広場を出ていってしまう。
 二度目は無い。そのことは十分知っている。これは彼からの最後の期待なのだ。その期待に応えたい。あの時、伝えられなかった想いを、今度こそ彼に伝えたい。でも、それを彼は信じてくれるのだろうか? 期待してくれている、と思うのはあくまで私の希望的観測なのだ。
 窓の外に視線を遣れば、暖かな橙色が差し込んできている。そろそろ時間だ。行かなければならない。例え、その結果がどのようなものになろうとも、私は彼と約束したのだから。
 後には、冷たくなった紅茶と、残されたお茶菓子が残された。



 少し用意をしてから桟橋に行くと、謁見の時よりも身軽な格好をした彼がもう待っていた。彼は私を見るなり、嬉しそうに駆け寄ってきて私の手を握った。

「久しぶり、レハト。やっぱ、大人になると背も伸びて変わるなー。前までレハトと身長一緒だったの、に……」

 ふと言葉が途切れ、不思議に思って彼を見上げる。彼は気まずそうに口元に手を当てて、もごもごと何かを言っていた。

「っ! な、何でもない! 早く行こ!」

 私の視線に気づいたらしい彼は、私の手を取るとすたすたと歩いて行く。彼には私を気遣う余裕がないのだろう、どんどん離れていく距離に私の足は自然と急かされていく。そして、とうとう私が動きにくい格好だということもあり、ちょっとした段差に躓いてしまった。その拍子に繋がれていた手が離れ、代わりに冷たい風を掴む。

「あっ、ご、ごめんっ……」

 私を気遣う彼に大丈夫と告げて立ち上がる。少しドレスは汚れてしまったが構わないだろう。
桟橋近くに浮かんでいた小舟に乗り込み、彼があの日のように櫂を漕ぐ。ゆっくり湖畔から離れていき、王城がどんどん遠ざかっていく。
 数分後、彼は櫂を置き、じっと私を見つめてきた。子供の時と変わらないその真摯な眼差しに、思わず目を逸らしてしまう。

「……レハト」

 名を呼ばれ、彼の方を見る。彼は視線を私ではなく、遠くに見える王城へと向けていた。

「俺さ、大人になってから、いっぱい考えた。……レハトはどうして俺と一緒にいてくれなかったんだろうって。レハトは俺と同じ気持ちだって、信じて疑わなかった。……子供だったんだ」

 そこで言葉を区切らせると、再び彼は口を開いた。

「でも、大人になって、王になって、やっと理解出来たんだ。いつまでも約束を守るのは難しいことで、時にはそれを裏切ることもある。約束が絶対だなんてことはないんだ。ずっと一緒にいることだって、どちらか片方が死んじゃったら守ることが出来ない。でも――レハトの側にいれないのは寂しかった。それで、一度様子見に行ったんだ。もう見たらおしまいで、レハトの側にいるのは諦めなくちゃって。でも、レハトが俺の名前を呟いた時、もしかしたらって期待して、我慢できなくて。……今も」

 彼は耳まで顔を赤くしながら私を見つめる。少し低くなった声は緊張しているのか震えている。

「レハト。……俺は、レハトを愛してる。だから、その……これから先もずっと、俺の側で笑っていてほしい。つまり……結婚してほしい」

 そう言い、右手を伸ばす彼に、あの日の面影が見える。あの時とは違う、大人びた顔つきに、少しぼやけた視界。その言葉と仕草にどんな意味が秘められているのかはもう分かっている。
 私は迷わず、彼の手に自分の手を重ねて、その言葉に頷いた。彼の体温に、冷えた手が温まっていく。私も同じ気持ちだと告げた。
 暫くして彼は指の間に、彼の指を差し込み、ぎゅっと私の手を握った。私もそれに応えるように握ると、彼は徴を重ねるかのように、そっと額を合わせてきた。彼の吐息が間近で感じる。何だかくすぐったく感じる。

「……ありがとう」

 至近距離で見つめられながら、そう告げられると同時に口付けされる。あの時の水中で交わしたものよりも、何倍も温かくて心が満たされる。
 数秒後、唇が離れていき、また彼を真っ直ぐ見つめる。今度は、照れ臭くなったのか、どちらともなく笑いあった。
 そんな、年明け前の出来事。


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Author:真織
サイト名の通り、色んなキャラに浮気しまくってます。基本SS(と呼んでいいか分からない文)書いて満足してます。矛盾・誤字などがありましたら報告して下さると嬉しいです。

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